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山小屋の夜。われわれは睡眠に出遅れてしまった。
うっかり『写真講習会』なんぞをのぞいてしまったのだ。
これが終わったのが20時半ごろ。
歯をみがいて、ふとんをしいて、21時には寝る体制を整えたがぜんぜん眠くならない。
あたりからカエルの大合唱が聞こえるからだ。

ゴーゴーゴゴー ゴーゴーゴゴー  フゴッフゴッフゴッ
グォー グォー グォー グォー

にぎやかなイビキ。

そして、階下からはガタガタと片付けの音が止まない。
いったい何人で掃除してるんだ?
消灯から30分を過ぎても音がやまないので、片付けではないことに気づきました。

妖怪? ラップ音?

くだらないこと言ってすみません。
風に建物がゆれる音です。一晩中、ドアや床の鳴る音が止みませんでした。

はじめての山小屋泊。 ふだんしない昼寝をとったり、夕飯時にビールをのまなかったせいか
ほんとに眠りに入れません。
そっとかいぬしをうかがうと、アゴの下にヘッドランプで照らしてました。
そんなことしなくてもじゅうぶん怖いカオですキュ。

やっとうつらうつらしたころ、ベルが響きました。
とっさにあたりをみたけれど何事も起きてません。
隣から話し声が聞こえてきて、そちらの目覚ましだとわかりました。
がさがさ準備をして、ふとんを畳んで出ていく足音が聞こえました。

時計みると、3時20分。
外は月も星もなく、強風が作り出す甲高い悲鳴が轟いています。
こんな不穏な道を歩いていくのか。
われわれも登山マニアになったらこの時間に出ていくようになるのだろうか。
そんなことを考えながら、ゴロゴロしてました。

日の出は4時44分。
いま起きてもすることも行く場所もありません。
右左に寝返りを打っても、ちっとも時間が過ぎず退屈で仕方ありません。

4時になると、あちこちで目覚ましのベルがなりました。
みな、あまり周囲を構わず音をたてるのでびっくりしました。
山小屋ってそういう文化みたい。
繊細な人は耳栓を持っていくか、個室をとってね。

待ちに待った4時半。ゴソゴソふとんから出ます。
外は青を溶かしたミルク色。とても日の出を拝めそうな感じはしません。
でも、もしかして、この強風で霧がふき飛ぶかも。
そんな期待を胸に外に出ると、手でつかめそうな霧の塊がありました。

かいぬし「・・・・・。」
モケ「昨日、寒い中、夕陽をみにいってよかったね」

3分で山小屋の中へ戻りました。

朝食は5時から。昨日と同じく並んでお膳を準備し、学食のような席につきます。
活気ある食堂。あったかいみそ汁に元気づけられます。
10分で食べ終わり、5時半、白馬山荘を後にしました。

きょうのルート:
 白馬山荘出発点
 白馬岳山頂山荘のぼってすぐ
 三国境コマクサがいっぱい
 小蓮華山見晴らしのよい尾根道
 白馬大池青い湖と花畑
 乗鞍岳岩だらけのケルン
 天狗原広い湿原。ワタスゲがいっぱい。
 栂池自然園ゴール
 * 行程、約7時間。写真を撮っているのでのんびり目。休憩1回。

昨日の夜から続いている強風はまだやみません。
リュックの紐や服が常にあおられています。
いつもこんな風が吹いているから、ここの高山植物は背が低いのでしょう。
こんなに寒くて(朝は4℃ぐらい)、ロクに栄養もなさそうな地面に
原色の花がたくさん咲いている様子はとても不思議です。
そんな花たちを撮っていると、後ろからリュックをひっぱられる感じがしました。

「なんですきゅか?」
「にぶいから、落ちないように」

やさしいかいぬしです。

実は昨日、豪快に転んだところを見られてしまいました。
ほこりを払ってとぼとぼかいぬしに追いつくと、うれしそうに声をかけられました。

「なんであんなスローモーションで転ぶの?」
「セリフがちがいますキュ。まず『だいじょうぶ、レサ吉?』ですキュ。」
「デブだからなぁ。コマみたいにまわったのかな。」

ひどい言われよう。
でも、こんな何もない尾根で転んだらまっさかさまなので、支えてくれたようです。

6時半をすぎると、太陽と青空が見えてきました。
昨日より山肌や尾根がくっきりと見え、非常に高度感があります。
雲が足下からわきあがり、尾根を境に天気を分断してしまう様子は手品のよう。

うれしそうに水をのんでいると、反対側からやってきたご夫婦にまた尋かれてしまいました。
「朝日岳はどれですか?」
カオを見合わせる2匹。
モケは勇気をふるって言ってみました。
「背後がコレンゲヤマなので、あちらの右側の山ではないでしょうか」
「あぁ、これショウレンゲ(小蓮華)なのね」
・・・山の名前を間違えてはずかしい生き物。地図にはフリガナをつけてくれキュ。

そんなはずかしさも3歩歩くと忘れてしまうようなすばらしい景色が続きます。
見下ろす大雪渓、ハクサンイチゲやイワギキョウの群落。
写真を何枚も撮ってしまい(デジタルカメラの)メモリ残ばかりが気になります。

白馬大池から乗鞍岳は、いままでとは趣の異なる岩の道。
着地点を探しながら、岩の間を上下します。
岩とハイマツの地味な地面を彩るように、所々ハクサンシャクナゲが光っています。
すいぶん遅い開花です。下界との温度差を感じます。

尾根から栂池自然園(ゴール)だと思っていたところは天狗原でした。
木道のある湿原だったので、見慣れたあの場所だと思っていたのです。
ビールを期待していた2匹は、あと1時間以上も呑めないことに気づいてうなだれます。
けれど、今年初の『ワタスゲもりだくさん』が見られ、すぐ気分が復活。
チングルマ(花穂)、タテヤマリンドウもたくさん咲いてました。

岩の登山道は続きます。
大きなテーブル岩にのって、満開のウラジロナナカマドを眺めました。
だんだん頭上に木々が多くなってきます。
ガスも増え、われわれの歩いてきた山は見えなくなりました。
ひたすら歩く。
もくもくと歩く。
2匹の耳にゴーゴーと水の流れる音が聞こえてきました。

栂池だ!

こんなにゴールを待ちわびるのは久しぶり。
下って、下って、下って、橋をわたると、そこは栂池自然園。
ツアーのお客さんがいっぱいいる村営宿舎前で、汗だくの2匹はがっちり握手しました。
お互いをねぎらい、ビールをぐびぐび呑んで、白馬岳登山は終了しました。



山登りをしない人に山登りのたのしさを説明するのは難しいんだけど
やっぱり『景色』が魅力なんですね。

一歩一歩距離を稼いで、いい景色では時間をとって、目的地をめざす。
めいっぱい自分のペースで時間を使う、ぜいたくな遊びです。

むかし、スコットランドを車でまわったとき、広い台地にたくさんの虹がかかっているのを見ました。
この景色をみんなに見せてあげたいと思いました。

いま、山ですばらしい景色をみたときはちょっと違う風に思います。
この景色とそれを見るために費やした時間、これを眺める普段とは違う時間の流れを教えてあげたいと。

みなさまも、すてきななつやすみをお過ごしください。

■ 地図長野・白馬岳 powered by Mapfan

撮影日:2005年 7月21日  
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