尾瀬へ行った。
これだけ出かけているにもかかわらずはじめての場所である。
なぜ足が向かなかったのかって?
そりゃ混雑が苦手だからですキュ。
月曜の夜、かいぬしからの電話。
「ほんとにさ〜、すいてるのかな〜」
「ギュ?」
あと数時間で出発しようかというのになんという愚問。
混んでるのがそんなにイヤなら、あらかじめ観光協会に様子を聞いたのに。
毛駄者はかいぬしの混雑ギライぶりを甘くみていたことに気づかされた。
ま、行きゃなんとかなりますキュ。
都合の悪いことはなかったことにする毛者。知恵が少ないから考えるのは苦手なんですキュ。
今回は車で入山できないので始発バスに間に合うよう出発した。
予定より早く到着したが暗く、車も1台しかなく、ほんとにここでいいのか不安である。
時間前に起きればなんとかなるキュ。
やっぱり毛者知恵。
……間一髪でバスに飛び込み鳩待峠を目指す。
平日とはいえ、われわれ以外の乗客がひとりしかいないことに驚愕する。
こんな有名な観光地、いまはオンシーズンのはず。
後でわかったのだが、マイナーな駐車場に車を停めたせいだった。ここだとバスの系統が異なるようだ。
鳩待峠5:20。ずいぶん人がいる。
お弁当を食べたり、けんちん汁をのんだり、ノビをしたり、これから歩く準備に余念がない。
そんな人々を横目にトコトコ尾瀬へ入る。
どんどん下る。
階段を降りる、降りる、降りる。
かいぬしの時計で高度をみると、あっという間に100メートル近く下がってる。
尾瀬は相当広いと聞いていたので、山の中腹にあるなんて不思議な気がした。
道々、朝露に濡れた花がそこここに咲いていた。はりきって撮影する。
サクラを撮っていたら「これ、なんていう花ですか」と尋かれた。
「え。ヤマザクラ。じゃだめですか…?」
おばさんは笑いながら行ってしまった。
いくらモケがかしこそうだからって、質問はこまる…。
痛いキュ、痛いキュ、かいぬいさまごめんなさい。モケ悪くないキュ。悪いのは口ですキュ。
ふぅ。なんだっけ。
そう。尾瀬では、いまサクラが咲いてました。
山の鼻。ここから尾瀬らしい風景がはじまる。
かいぬしは日ごろの疲労が応えたのか、いきなり「寝る」と言い出した。
「モケは写真撮ってていいから」
最近、このセリフをよく聞くような気がしてしょうがない。
休憩スペースでゴロ寝するかいぬしを尻目に、カメラ2本を首に下げ、撮影を開始した。
至仏山を1枚。ミズバショウを1枚。
ワタスゲと同じ高さでピントをあわせているうちに気が遠くなってきた。
眠気がコピーされたみたい。
あわててカメラをにぎりしめるモケ吉。
とぼとぼかいぬしのところへ戻ろうとすると、すでに後ろにいた。
「スッキリ」
さわやかそうなかいぬしがちょっとうらやましい。
2匹は尾瀬の木道をもくもくと歩く。
きれいで歩きやすい。よく整備されている。
これなら年をとってからでも来られるなぁ、と思う。
牛首から東電小屋を目指す。
ここから先はほんとに人気がなかった。
「モケ、しずかに」
なんにもしゃべってないのにかいぬしが言う。
あぁぁぁ。ヘビですキュ。
一瞬驚いたがすかさずカメラを構える。
撮った瞬間、シュルシュルと木道から湿原へ帰っていった。
また、しずかな道を歩く。
わずかにズミ(小梨)が開いていた。
鼻を近づけると、リンゴのような甘い香り。
これがすべて開いたら、もっと遠くの見えないところからズミの存在がわかるだろう。
ヨッピ橋。渡った先に小さな休憩スペースがあった。
「昼ね」
またもかいぬしが宣言する。
せっかく尾瀬まで来たのになんてもったいな……
気がつくと30分寝ていた。
川のせせらぎと鳥の声、絶えず吹くここちよい風の中での睡眠は何にも変えがたかった。
これはクセになりそうだ。
すっきりしたアタマで東電小屋を目指す。
見晴、竜宮を経て元の道へ戻ってきた。
気がつけば7時間は歩いただろうか。
道は平坦だし、景色は茫々と広いし、なんとなく歩けてしまうのだ。
山の鼻から最後の登りはやっぱり疲れた。
朝は開いてなかったスミレやサンカヨウが道を彩っていた。
行きと同じく、戻りのバスにも出発3分前に飛び乗る。
2匹のアタマの中には、風呂とビールが踊っている。
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